朝告げる鳥が恋人たちに囁くよ


朝、どちらが早くに起床するか、と聞かれたらルルーシュだと即答できた。
だけどそれにも例外はある。目覚まし時計が鳴る前に目覚めたスザクはふと横に目をやった。
壁際にそれぞれ位置するベッド。ルームメイトはまだ夢の中か、と丸まった背を見つめた。
だが、不規則に上下する背中といい、もぞもぞした動きはどこか不自然だ。
「……ルルーシュ」
声をかけると、びくりと明らかに反応があった。
どうかしたのかい、と起き上がって声をかけた。熱や風邪ならいけないではないか。
「いい!いや、何でもないっ!……何でもないんだっ」
「どうかしたの?本当に大丈夫?」
「大丈夫だッ」
「……、そう」
おかしい。
その焦ったような声は隠し事をしていると盛大に吹聴しているようなものだ。
シーツをのけてベッドから降り立つと、案の定ルルーシュがぎくりとしたように体を震わせた。
子どもがよくするような丸まった格好で、顔の半分も隠すようにシーツを引っ張りあげている。
「苦しくないの、それ」
「平気だ。問題ない」
ルルーシュは頑としてそのシーツを引き下げようとせずに会話する。
中に何か隠しているのだろうか。ルルーシュが見つかって嫌なもの、エロ本?ポエム調の日記?
スザクの想像力では具体的にどれともわからず、仁王立ちになって向き直った。
「ほら、ルルーシュ!どうしたんだよ!」
「あ、こら何する!」
ばさっと力任せに奪ったシーツの下には、ルルーシュしかいなかった。
だが、隠すように動いた手の行き先でスザクはようやく合点がいった。
何だ、それか、と。
ルルーシュはシーツを握りしめ、下半身から目を逸らして羞恥に頬を赤らめていた。
「別に男同士なんだし、隠さなくたっていいじゃないか」
「だからって、わざわざ他人に見せるものでもないだろうがッ。そっとしてくれればよかったんだ」
「あはは、ごめんよ。お詫びに僕がしてあげようか」
「誰が頼むかッ!」
スザクの提案には、とんでもない!と言わんばかりにルルーシュは目を見開いてにらみつけた。
同性でありながら恋人で、まして体を許した相手だというのにこの態度。
相変わらずな反応にスザクは少し臍を曲げた。
「ねえ、君さ。もしかして、僕としたアレを夢に見てこうなっちゃったとか?」
額がくっつくような距離で、わざとらしく上目遣いをした。
不機嫌そうに顰められた眉とアメジストの瞳が非難するように眇められた。
そして肩に滑らせた手が、ぞんざいに払いのけられる。

「……ッ、おまえってやつはスザク、そういう不埒な空想を…口にするな…っ!」

「ルルーシュ、君ねえ」
本当にそういう日本語を使うのはうまいよね、と何だか呆れてしまう。
スザクよりも頭の回転といい、知識量とてかなわない相手だというのは承知の上だが、こういう場面でのルルーシュの対応の拙さはいかがなものかと、ちらと頭をかすめた。
古い木製のベッドが二人分の体重をうけて、みしりと不満を鳴らす。
「大体ね、そういうのは空想じゃなくって妄想って言うんだよ」
「なっ!俺は断じてそういう趣味はない!」
「あっても困るけど、……あ、でもそういうルルーシュも意外と面白いかも」
「さっきから余計な想像をするな!バカ!」
振り上げた拳をあっさりと受け止めて、その手に口づけた。
すり寄った体をさらに密着させると、後ろから抱え込むように背後を取ってしまう。ようやく意図に気づいて逃げ出そうとする体。腰に腕を回すことで封じ込め、首筋にも唇を落とした。
「……バカ、早く食堂に行かないと食いっぱぐれるぞ」
「いいよ、後で二人で街に出ればいいじゃないか」
休日なんだし、と付け加える。
甘えた声でねだれば、彼がNOと無下にできないことをスザクはよく知っていた。
そしてそのことをわかった上でなお、ルルーシュは結局自分が彼に甘いことをよく知っていた。
「それにさ、そんな夢の中じゃなくたって、現実の僕が相手してあげるよ」
「願い下げ……だったんだがな」
シーツに再び逆戻りしたルルーシュは諦めたように溜息を吐いた。
往生際の悪さに苦笑しながらスザクは覆いかぶさるようにして、頬からその体へと唇を滑らした。こんな休日でもないと、ルルーシュは「おまえは体力バカだからいいが……」とスザクの尽きない欲望に対する尻込みなのか、なかなか相手をしてくれない。
たまっているのはこっちも同じなのだ。
だから、好きにやりすぎて手加減できなくても許してほしい。
心の中で先に謝罪してしまうことで、これからの行為に対する勝手に精神的な免罪符を得る。
ふとベッドサイドの時計がスザクの目に入った。
ルルーシュがそれに気づいてか、「ところで今、何時なんだ」と尋ねてきた。
スザクはその文字盤が見えないようにゆっくりと倒してしまうと、教えない、と笑みを深くした。

「僕が君に時間のことなんて忘れさせてあげるよ、ルルーシュ」




ヒバリが一羽、甲高く鳴いたのが聞こえた。





080922